台長コラム ときどき土佐日記

2014年6月アーカイブ

火星人の未来と地球人の未来(その2)


火星人が地球を観察して最も注目したのは、地球上どこの国の言葉にも「平和・思いやり・助け合い・分かちあい・友愛...」といった美しい言葉があることでした。このような言葉を聞いて火星人は地球人と仲良く共存できるのではないかと考えたのです。これが地球移住計画の発端でした。しかし、注意深く観察すると、必ずしも言葉どおりではありませんでした。特に民族や国が異なると、これらの言葉とは全く反対のことがしばしば起こるのです。宇宙から見ると、そのような美しい言葉が地球全体で実現しているわけではないことを知って火星人は失望しました。


火星人が注目したことは他にもいろいろありましたが、なかでも地球人の資源や富の配分は、火星人には理解しがたいことでした。火星では、資源や富は必要な量を分かち合って出来るだけ無駄の無いように生活してきました。それは、資源の少ない火星で皆が生きのびるためには特に大切なことでした。しかし、地球人は必要な量をはるかに超える資源や富を少数者が独占しています。そのため浪費が多く、貧富の差が極端に大きいのです。地球で最も豊かとされるアメリカという国の場合、全体の5%未満の人たちに、全アメリカの半分以上(約60%)の富が集中しているというのです(注2)。国と国の間にも大きな格差があります。火星人には理解できないのですが、地球では資源や富を無制限に独占することが許され、さらに、独占や格差を固定化するような政治・経済システムがあるようです。地球は火星に比べるとはるかに自然や資源の豊かな惑星なのになぜ貧しい人々が多いのか、火星人にとって理解し難いことでしたが、その理由がここにあるのでしょうか。


貧しい人は富が少ないだけでなく、生活や人生における選択の余地も限られ、劣悪な条件でも過酷な労働に従わざるを得ません。昔の奴隷制度が形を変えて今も残っているようです。もし、火星人が地球人に受け入れられたとしても、より厳しい奴隷的状況に置かれるのではないかと恐れます。体力のない火星人には耐えることが難しいでしょう。

 

火星人にとってもう一つ心配なことは、地球人による核の利用です。ひとたび核兵器が使われたり、あるいは原発が大事故を起こしたりミサイル攻撃を受けたりしたら、地球人の手に負えない状況になり、それが長期間続くことになります。火星人の手にも負えません。その危険性は地球人もよく知っているようで、警備や機密保持、あるいは市民の監視が強化されています。また、地元には「理解」を得るために膨大なお金が注がれています。その結果、社会や人間関係に信頼や自由が失われ、民主的な地域社会が崩壊します。さらに原発から生じる放射性廃棄物の安全な処理方法もまだ地球人は知りません。放射性廃棄物は厳重に隔離され、百年も千年もその先まで厳重に管理されねばなりませんが、今の地球人にそれができるかどうか疑問です。火星人にとってもそれらを追跡することは不可能です。ということは、もし100年先に可能になったとしても、火星人の地球移住は大変危険なものになる可能性があります。


地球は豊かな惑星ですが、地球人がこれまでのような生活や争いを続ければ、遅かれ早かれ資源が枯渇し、さらに地球温暖化や人口爆発によって環境や人間関係が破壊され、地球人の生存は危うくなるでしょう。今回の地球接近では、世界各地で紛争や緊張を高めようとする動きが活発で、一層の危機感を覚えました。火星人は、自分たちだけでなく、地球人の未来もたいへん心配しているのです。火星人は忠告します。もし、子孫のために少しでも生存の可能性を伸ばしたいなら、地球人はもっと宇宙的な眼で自分たちを見るべきです。「宇宙を身近に!」。



(注2)小林由美『超・格差社会 アメリカの真実』日経BP社、15頁。


◆広報担当からおことわり

この「お話し」は台長の「空想」による創作です。火星人については、これまでに何回か探査機が火星に着陸して調査していますが、その存在も、かつて存在したことを示す痕跡も見つかっていません。
 (台長からひと言。この「おことわり」は、「読者がこのお話を事実と誤解してはいけない」という広報担当者の老婆心...。老婆心ではなく、優しい乙女心、思いやりから記されたものです。)


火星人の未来と地球人の未来(その1)


4月に地球に最接近した火星は、まだ日没後の南の空に赤く輝く姿が目立ちます。5月末には、逆行から順行に転じ、そろそろ地球から遠ざかる準備をしているようです。

火星は、昔から占星術などで戦いの星、不吉な星とされていたようです。赤い色が血を連想させるからでしょうか。

このところ、世界中いたるところで戦争・紛争、災害、事故・事件、あるいは人種差別や排外主義勢力の進出など、気になることがたくさんあります。もし占星術が信じられていた時代だったら火星の置き土産と解釈されたかも知れません。


火星は地球のとなりを公転する惑星ですが、地球の公転周期との関係で、およそ2年ごとに地球に近づきます。望遠鏡が発明されると、火星の接近ごとに詳しい観測がおこなわれ、新しい発見がありました。天文学の発展とともに占星術を信じる人は減りましたが、火星表面の模様やその季節変化などから、火星には高度な文明を持った生命、火星人が存在すると考える人も現れました。


およそ100年あまり前、イギリスの作家H・G・ウェルズは、環境悪化によって火星に住めなくなった火星人が地球に移住すべく地球侵略を計画したと空想し、SF小説『宇宙戦争』(1898年)を著わしました。『宇宙戦争』の冒頭、「...。この地球が、人間をはるかに凌駕する知能を持ちながら人間と同様にかぎりある命しかもたない生物によって周到綿密に観察されており、人間がさまざまな営みにあくせくするあいだ、人間が顕微鏡で一滴の水中に群がり繁殖する微生物を丹念に調べるのに匹敵する精度で、観察と研究はつづけられているのだ...。」(注1)とあります。そして、ついに火星人は地球侵略を開始し、地球を徹底的に破壊し尽くしたのでした。

『宇宙戦争』はその後も世界中(地球中)で読み継がれたのですが、実は、火星人は地球移住を思いとどまったのです。その理由は次のようなものでした。火星人はウェルズが想像したような無慈悲で残虐な生き物ではありませんでした。極端に少ない資源とエネルギーを分かち合い、助け合い、究極のECO生活を営む、思いやりのある優しい生き物だったのです。だからこそ資源が極端に少なく、環境も厳しい火星で生き延びることができたのでした。

そのような火星人が見た地球は、国という単位に分割され、国境や国益をめぐって争いが絶えることがありません。火星には、国境もなければ、国益という概念もないので、火星人には理解しがたいことでした。火星人は、地球の至る所で勃発する戦争や残虐行為に恐れをなしていたのです。もし、地球に移住したとしても、地球人が歓迎してくれそうにありません。小さな無人島の帰属をめぐって国を挙げて争う地球人が、火星人のために生活の場を提供してくれるとはとても思えません。さらに、出自や肌の色が違うだけで差別されるような社会では、地球人とはだいぶ体型の異なる火星人はどんな扱いを受けるでしょうか。見世物にされる恐れもあります。


実は、ウェルズの空想に反して、火星人は「人間をはるかに凌駕する知能」を持っていたわけでもなく、また戦争も得意ではなかったのです。もし、戦争などをしていたら、資源の少ない過酷な環境の火星では、火星人はとうの昔に絶滅してしまったはずです。火星人にしてみれば、少ない知恵を絞って、なんとか生きる道を探し続けてきたのでした。その一つが「戦争をしないこと」でした。だから、もし地球に移住するために地球人と戦わなければならないのなら、移住を中止する他ないと考えたのです。そして、彼らが火星であと何年生存できるかを再検討しました。その結果、今のような生活を続ければ、少なくとも数百年は火星で生きていけることがわかりました。と言うことで、ウェルズの空想に反して、火星人は地球移住を延期し、地球の観察を続けるとことにしたのです。


(つづく)


(注1)H・G・ウェルズ『宇宙戦争』中村融 訳、創元SF文庫。


◆広報担当からおことわり

この「お話し」は台長の「空想」による創作です。火星人については、これまでに何回か探査機が火星に着陸して調査していますが、その存在も、かつて存在したことを示す痕跡も見つかっていません。

(台長からひと言。この「おことわり」は、「読者がこのお話を事実と誤解してはいけない」という広報担当者の老婆心...。老婆心ではなく、優しい乙女心、思いやりから記されたものです。)