台長コラム ときどき土佐日記

2009年10月アーカイブ

 台長に就任以来、出張の度にできるだけその地方の天文台・科学館・博物館・美術館などを訪ねるようにしています。仙台市天文台の参考になることがあればということです。先日(9月14日~16日)、山口大学で日本天文学会秋季年会が開催された折、プラネタリウムがあるというので、津和野の安野光雅美術館に行って来ました。実は、私は安野さんの絵が好きなので、原画にも興味がありました。また、以前に安野光雅著『故郷に帰る道』(岩波書店)を読んで津和野の街並みにも関心があったので楽しみでした。

 プラネタリウムの投影まで時間があったので、駅前で自転車を借りて町内を一回りし、森鴎外記念館や葛飾北斎美術館などを見学しました。津和野は私が想像していたよりずいぶん小さな山間の町で、美しい懐かしい街並みや風景が残っていました。

 プラネタリウムは、入場者が2人だけで申し訳ないようでしたが、全自動のプログラムで少し気が楽になりました。星空の投影の前に、映像による安野さんの挨拶とお話がありました。安野さんの絵本『天動説の絵本―てんがうごいていたころのはなし』(福音館書店)の絵を用いた話で、何故この美術館にプラネタリウムを設置したか説明がありました。正確には記憶していませんが、その趣旨は次のようなものでした。

 絵画や美術は想像や空想を自由にふくらませて表現するものですが、一方、現実の自然を科学的に見る目や論理的思考も大切です。そこで、プラネタリウムを設置し、天文学を通して科学に触れていただこうということでした。科学と空想のバランスを取ることが大切だという話で、私も同感です。私には、安野さんの絵は非常に論理的で安心感があるのですが、そこに非論理あるいはあり得ないことを描いて驚かせます。意表を突く、論理と非論理の対比がとても面白く感じます。

 美術館には昔の学校の教室を再現した部屋もあって、私も幼少時代を思い出しました。その頃、学校にプラネタリウムがあったらさぞ楽しかっただろうと思いました。
 先日(10月13日午後)、仙台市教育委員会の「小・中学生のためのサイエンス講演会」が仙台市天文台で開催されました。講師は前国立天文台長の海部宣男さん。今年は世界天文年2009日本委員会の委員長としてご多忙とのことでしたが、仙台に来て下さいました。講演の題目は「第二の地球を探そう」で、世界天文年2009と太陽系の外に地球のような惑星を探す話をされました。

 対象は小学校5・6年生と中学生で、天文台の加藤小坂ホールが小・中学生と父兄でいっぱいになりました。講演中は小中学生の皆さん静かに熱心に話を聞き、講演終了後の質問タイムには活発な質問がありました。

 正直に言うと、小中学生の皆さんが静かに講演を聞いてくれるか、また質問が出るかどうか少し心配していたのですが、全くとり越し苦労でした。天文台で小学生の授業を担当している指導主事の佐々木靖先生と「小・中学生なかなかしっかりしていますね」と感想を述べあいながら、うれしくなりました。

 次回は冬休みに開催の予定です。時期がくると、「市政だより」などに募集の案内が掲載されますのでご注意下さい。対象は小学校5・6年生と中学生です。
 
 参考:仙台市天文台では、通常平日の午前中、仙台市内小中学生向けの理科の授業が行われています。
 新聞を整理していたら、霜山徳爾さんの訃報が目に留まりました。上智大学名誉教授、臨床心理学、フランクル著『夜と霧』の訳者、10月7日死去、90歳とあります。

 私が最初に霜山さんを知ったのは学生時代フランクル著『夜と霧』(みすず書房)を読んだときでした。アウシュビッツ強制収容所から生還した心理学者による収容所の記録です。極限的・絶望的な状況のなかでいかに生き延びたかが記され、強烈な衝撃と感銘を受けました。

 その後(20数年後)、大学で学生相談に関わるようになってカウンセリングや心理療法の本を見る機会がありました。そこで鍋田恭孝編集『心理療法を学ぶ』(有斐閣)の中に霜山さんが執筆された一章「心理(精神)療法家としての心構え」を読み、参考書にあった霜山徳爾著『素足の心理療法』(みすず書房)を見つけ、久々の再会になりました。

 『素足の心理療法』は心理療法家の心構えを説いた本ですが、古今東西の文学・芸術・宗教などを引用しながら、人間とその心の宇宙を語っていました。私には難しい本でしたが、深い感銘を受けました。

 最初に「沈黙」の意味と豊かさが説かれ、次いで「心理療法の根本原則は、害を与えざること第一なり」、「いやしに毒はつきもと」と心理療法家に絶えず反省を促す言葉が続きます。これらの言葉は、教育や人に働きかける仕事に携わる人にも大切な言葉だと思いました。

 霜山さんの言葉は、長い心理療法の経験に基づくもので、人の心の中の広大な宇宙と暗闇を感じさせるものです。霜山さんはそのような心の宇宙の案内人であり、また、心の奥の暗闇に光を灯そうとする伝道師のように見えました。宇宙の暗黒物質のように、心の宇宙にも見えない大きな無意識の暗闇があり人間を支配しているようです。

 霜山さんの著作は学樹書院から出版された『霜山徳爾著作集(全7巻)』にまとめられています。私も折に触れ著作集を開いていましたが、しばらくご無沙汰しておりました。この機会に霜山さんの著作を訪ね、ご冥福をお祈りしたいと思います。
 いつの間にか時が経ち、日記に長い空白ができてしまいました。ご心配をおかけして申し訳ありません。暖かい励ましのお言葉を頂きありがとうございました。私の方は変わりなく天文台の仕事に励んでおります。

 まずは近況のご報告を。先週、第57回全国博物館大会が北海道旭川市で開催され、旭川に行ってきました。仙台市天文台は博物館として登録されており、台長に就任以来、博物館・科学館関係の会議や研修会に参加し勉強しております。今回もいろいろ参考・勉強になりました。

 今回のテーマは「博物館の再生、地域と文化の創造」でした。「再生」という言葉から、博物館は、科学館・公開天文台・動物園などを含めて、いろいろな問題を抱えていることが推測されます。予算やスタッフの削減、入館者の減少など困難な時期を経ていかに再生したか、経験や事例が報告されました。

 「再生」の処方箋があるのかどうかわかりませんが、「再生」を成し遂げた施設は、施設の目的・使命を改めて確認し、職員の意識変革をはかり、再生に向けた工夫と努力を重ねたということでした。

 仙台市天文台の場合、誕生(新生?)したばかりで、再生するために落ち込む必要はないのですが、今後元気に成長していくためにどうすべきかを考えています。先輩施設が「再生」のために考えたり実行したことを聞いていると、今私たちが考えたり実行しようとしているとことと重なり、意を強くしたところでした。

 今回もう一つ印象に残ったことは、「わかりやすさの危うさ」という問題を提起された方がいて、私も日頃考えていることだったので、強く同感しました。わかりやすさを追及するあまり、肝心の伝えたい内容が失われてしまう恐れがあるということです。これについては次の機会に。