仙台市天文台について

台長からの2016年のご挨拶

宮沢賢治 VI



2016年 「宮沢賢治」

 

 仙台市天文台では市民の皆様に宇宙を身近に感じていただけるような活動をめざしています。様々な活動を通じて宇宙の理解が深まり、宇宙が身近になることを願っています。その一助として毎年テーマを設け活動の指針としています。

 

 2016年度のテーマは宮沢賢治生誕120年を記念して「宮沢賢治」です。

 

 私は「雨ニモマケズ 風ニモマケズ」で初めて宮沢賢治に出会いましたが、賢治の作品を読むようになり、様々な人物やキャラクターに出会いました。その中で最も親近感を覚えるのは『虔十(けんじゅう)公園林』の主人公虔十少年です。「風がどうと吹いてぶなの葉がチラチラ光るときなどは虔十はもううれしくてうれしくてひとりでに笑えて仕方ない」という少年です。私も幼少のころ星に親しむようになり、東の空に目当ての星が昇ってくるのを見て「うれしくてひとりでに笑えて仕方ない」時がありました。今もその時のことを思い出すとうれしくなります。

 

 虔十少年は幼くして亡くなりましたが、私は成長して『銀河鉄道の夜』を読むようになりました。主人公ジョバンニと親友カムパネルラとの交流や美しいファンタジーの世界に引き込まれ賢治の宇宙を旅しました。不思議な物語が展開しますが、物語を読み解こうとすれば賢治の心の宇宙を探究することになります。

 

 昔、神の意思が天に現れると考え、天文学者は天の文様を読み解き神意を知ろうとしましたが、やがて天文学は宇宙を科学的に探究する学問になり広大な宇宙を発見しました。賢治の物語も、歳を重ねるごとに読み返すと、彼の心の宇宙がより深く広がっていることを発見します。

 

 賢治の物語には天の川や様々な星が登場しますが、その由来を考えると自然の宇宙につながります。天の川や美しい星空は光害のために都会では出会うことが難しくなりましたが、よく晴れた夜には天文台の惑星広場でも見ることができます。プラネタリウムでは賢治が見たであろう天の川や満天の星を疑似体験することができます。また、天体観望会ではひとみ望遠鏡を覗(のぞ)いて星や天体のリアルな姿を見ることができます。さらに展示室では目に見えない星や天体について学ぶことができます。

 

 賢治の物語を読むと、深い孤独や悲しい別れに胸が痛むことがありますが、一方、虔十少年の豊かな感性、カムパネルラやジョバンニの思いやりのあるたくましい心、あるいは豊かな自然との交感などに出会うと希望が湧いてきます。賢治は37歳という若さで世を去りましたが、私たちの心に多くの希望の種を残してくれました。そのような希望の種を虔十少年のように大切に育てる、「サウイフモノニ ワタシハナリタイ」と思います。

 

 賢治は豊かな自然の中で宇宙を身近に感じながらイメージを膨らませて理想郷イーハトーブを夢見ました。皆さんにも天文台で思う存分イメージを膨らませいただければ幸いです。私は、天文台の惑星広場が賢治が夢見たイーハトーブの広場のようになることを夢見ています。

 

 仙台市天文台台長
土佐誠 サイン

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