仙台市天文台について

台長からの2015年のご挨拶

起源 VI



2015年 「起源」

 

 仙台市天文台では市民の皆様が宇宙を身近に感じていただけるような活動をめざしています。宇宙が身近に感じられる活動は様々ですが、私は宇宙の理解が深まって宇宙が身近になることを願っています。

 

 今年のテーマは「起源」、物事の「起こり・始まり・ルーツ」です。自然や宇宙、あるいは関連する生活・文化の起源を探究してみましょう。

 

 起源を考えるとき、最も重要な出来事は「誕生」です。どのような生き物も、誕生の瞬間は感動的です。星・恒星の形成過程にも「誕生」という言葉が使われますが、劇的で興味深いものです。
 星は銀河系の中で絶えず生まれていますが、その始まりは星間ガスの重力による収縮です。つぶれたガス球の中心で核融合反応が起こりエネルギーが放出されると、ガス球は高温になって自から輝き始めます。星の誕生です。この過程は母体となった周囲のガスや塵に隠されて可視光ではほとんど見ることができませんが、直接観測できる電波や赤外線によって解明が進んでいます。

 

 銀河系には新しい星、古い星などいろいろな世代の星が集まっています。星を調べると星が誕生した時代の銀河系の様子がわかります。銀河系が誕生した頃に生まれた古い星は、銀河系の起源を教えてくれる「生きた化石」です。こうした古い天体を「発掘」する銀河系の「考古学」は、銀河系の起源を解明する有力な方法です。

 

 星や人体を構成する元素の起源も興味深いものです。私たちの体はいろいろな元素が集まっていますが、その起源をたどるとむかし宇宙に輝いた星にたどり着きます。これらの元素は星の中心部の核融合反応によって合成され、星の一生の終わりに宇宙にまき散らされたものですが、星間ガスに混じりあって新しい星の材料となりました。そのような元素を集めて太陽や地球が誕生し、その一部が私たちの体に集まっているのです。これらの元素の原料となった元素は、最も簡単な元素の水素ですが、その起源は宇宙の始まりビッグバンにさかのぼります。このように、元素の起源を考えると、私たちの体にはビッグバンに始まる宇宙の歴史が刻まれていることがわかります。

 

 地球には宇宙から様々な物質がやってきますが、それらの起源も興味深いものです。流星は地球に高速で飛び込んできた宇宙の塵ですが、その起源は彗星がまき散らした塵です。オーロラを輝かせた粒子は太陽風にのって太陽のコロナからやってきました。このような物質の起源をたどると、地球は広く宇宙につながっていることがわかります。

 

 天体の起源を考えるとき、その誕生には必要な条件があります。地球の誕生には太陽が必要でした。太陽の誕生には銀河系という環境が必要でした。そして銀河系の誕生には、それを可能にする宇宙が必要でした。こうして起源をつきつめると宇宙全体の始まりにたどり着きます。

 

 宇宙の探究は起源を求める旅のようです。宇宙の時空の広がりと豊かさを考えると、この旅は人類にとって終わりのない旅になりそうです。

 

 仙台市天文台台長
土佐誠 サイン

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