仙台市天文台について

台長からの2014年のご挨拶


光 VI


2014年 「光」

 

 仙台市天文台では市民の皆様が宇宙を身近に感じていただけるような活動をめざしています。宇宙が身近に感じられる活動は様々ですが、私は宇宙の理解が深まって宇宙が身近になることを願っています。

 

 私たちはいろいろな光の中で暮らしています。五感の最初に挙げられる視覚は、光によって外界を感知する最も基本的な感覚です。この文章も、お読み頂いている方に、視覚を通して訴えるものです。

 

 光は周囲が暗いほど明るく輝いて見えます。東日本大震災で停電の夜、暗闇の中の一本のキャンドルの明るさに驚き感動したことを思い出します。 都会では光害で見えにくくなった星の光も、光害のない暗い夜空では驚くほど明るく輝いて見えます。星は夜空に輝く小さな光の点ですが、光を調べると、 その正体は太陽のように膨大なエネルギーを放射する巨大な高温のガス球であることがわかります。しかし、星の光は星の表面の様子を伝えるもので、 その膨大なエネルギーの源を知ることはできません。その解明には、外からは見えない星の内部の様子を知る必要があります。 自然の法則を駆使して見えないものを「見る」、それが天文学の次のステップになります。

 

 光があれば影ができます。影によっても、天体や物質の存在を知ることができます。天の川に沿って、暗黒星雲と呼ばれる星の少ない暗い部分が見られます。 その正体は天の川の中にあるガスと塵の「雲」で、背景の星の光をさえぎってシルエットが見えるのです。この濃いガスや塵は新しく生まれる星の材料となり、 暗黒星雲の中に星のゆりかごができます。

 

 光は波ですが、その波の振動数の違いが、私たちに色の違いとして知覚されます。星の光も自然の光も様々な振動数・色の光が混じり合ったものです。 これらはプリズムなどを使って振動数の異なる光に分けることができます。振動数ごとに分けられた光の分布がスペクトルです。 私たちの目には色の異なる光の帯に見えます。例えば、雨上がりに見られる虹も、雨粒がプリズムのはたらきをして作りだした太陽光のスペクトルです。 スペクトルは光を放出する物質やその状態を示すもので、天体の最も重要な情報です。ひとみ望遠鏡に搭載されている分光器は、 このような天体のスペクトルを取得する装置です。

 

 光は、空間を伝わる間にも様々な現象を引き起こします。青空や夕焼けの光の源は太陽の光ですが、太陽光が地球の大気を通過する間に、 大気による散乱の効果で晴れた空を青くしたり夕方の空を赤く染めたりします。星の光も、星間空間の塵による吸収を受けて、遠い星ほど赤みを帯びてきます。

 

 光を放射も吸収もしない、もしそんな「無色透明」の物質があればそれを見つけることは非常に困難です。実は、宇宙にはそのような物質が大量に存在すると 考えられ、暗黒物質と呼ばれています。暗黒物質の正体は不明です。しかし、質量を持つので周囲に重力をおよぼします。光は真空中を直進しますが、重力があると 光の進路が曲げられます。重力レンズ効果です。したがって、暗黒物質が多量に存在する方向では、重力レンズ効果によって背景にある宇宙の「風景」が歪んで見えます。 この原理を利用し、遠方の銀河の歪みを観測することによって暗黒物質を調べることができます。見えない物質を観測する新しい方法です。

 

 光に導かれて天文学が進歩し、宇宙の理解が深まりました。さらに、現代の天文学は、目には見えないものをも光によって解き明かそうとしています。 光に親しみ、宇宙を身近に感じて頂ければ幸いです。

 

 仙台市天文台台長
土佐誠 サイン

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