こうじとまことの交換日記vol.10

第10回<前編> こうじ(詩人)→まこと(天文学者)へ

kouji.jpg

まことさん、こんにちは。
まだ日中は暑いですね。
お元気でしたか?
 
前回のまことさんの日記、何度も読みました。
「きぼう」という言葉、何度も呟いては、考えました。
 
伊勢湾台風、知りませんでした。まさに未曾有の災害だったんですね。
自分が知らなかったことが、胸にずっと引っかかっていて...。
そのことを思うと、今回の震災もいつか風化してしまうのではないかと、複雑な気持ちになります。
 
そんなことを思っていたら、台風がまた尊い命をたくさん奪っていきました。
ほんと、次々に信じられないことが起きていきます。
 
今、この日記は9月11日に書いています。
昨日は天文台のプラネタリウムライブでした。
そして、今日はいろんなメディアで10年前の同時多発テロのことと、半年前の東日本大震災のことが取り上げられています。
「世界が変わった日」と言われています。
ぼくたちは、そんな時代に生きて、なにを感じ、考え、伝えていくのか、何度も問いかけなくてはいけないと思います。
 
半年経って、震災のことを、いろんな方と話す機会が増えました。
仕事としても関わることが増えました。
先に「風化」という言葉を書きましたが、風化することと前に進むことの違い、難しさを考えます。
 
先日、小学生たちと話をする機会がありました。
「地震、大変だったね」と言うと、ちょっと考えて「うん。だけど、いいこともあった」と言っていました。
その時のみんなの表情に、ハッとしました。
 
涙を大切に。
そして、笑顔を大切に。
 
そうそう、天文台で発表してきた詩をまとめて、詩集にすることが決まりましたよ!
タイトルは『チカチカ』です☆

(9月13日)

第10回<後編> まこと(天文学者)→こうじ(詩人)へ


makotokao.jpgこうじさん、詩集『チカチカ』おめでとうございます。楽しみにしてます。

こうじさんが日記を書いた次の夜、9月12日は中秋の名月でしたね。お月見しましたか?ボクは、お団子を食べながら、雲間の月を楽しみました。「チカチカ」と「月」でちょっと思い出したことがあります。
月を見るとすぐに聞こえてくるのが文部省唱歌の「月」です。こうじさんは歌ったことがありますか?

出た出た月が まるいまるい まんまるい 盆のような月が
隠れた雲に 黒い黒い 真っ黒い 墨のような雲に

また出た月が まるいまるい まんまるい 盆のような月が

とてもシンプルな歌ですが、なんとなく懐かしく、まん丸い月が目に浮かぶようです。隠れた月がまた顔を出すところが「いないいないばあ!」みたいで楽しいですね。子供の頃、遅くまで遊んだ帰り道、東の空に昇った大きな月を見ながらみんなで一緒に大声で歌った覚えがあります。

「出た出た」とか「まるいまるい」、「黒い黒い」、言葉の繰り返しが面白いですね。「チカチカ」も何となくいい雰囲気が伝わってきますよ。

月の歌と言えば、「月が出た出た」で始まる民謡がありますが、同じ単語でも並び方でずいぶん印象が違いますね。

娘が幼い頃、一緒に月を見ながら「出た出た月が」とよく歌いました。言葉が話せるようになると、娘は月を見ると「でたでたつきが」と指差すようになりました。月を「でたでたつきが」とおぼえたのです。しばらくして、単語を並べて話せるようになると、月を見て「でたでたつきが出た」と教えてくれるようになりました。しかし、いつからか「でたでた月が」が出ることはなくなりました。月はただの「つき」ということを知ったようです。

同じようなことをもう一つ。ぼくの家の窓の下をバスが通っていて、娘と一緒に窓から顔を出してよくバスを眺めました。窓の下は坂道で、バスはエンジンをふかしながら大きな音を出して登ってきます。バスが登って来ると負けずに大きな声で「バス来たバス来た」と叫びました。やがて娘は、どこでもバスを見ると「ばすきたばすきた」と指差すようになりました。しばらくすると、バスが来ると「ばすきたばすきた来た」と教えてくれるようになりました。しかし、いつからか「ばすきたばすきた」が来ることはなくなりました。

「でたでた月が」や「バスきたバスきた」は今頃どこにいるかな?お月見をしながら、そんなことを考えました。月を見ていろいろな思いをめぐらしている人がいるのでしょうね。こうじさんがお話をされた方も、同じ月を見ていたかもしれませんね。

だいぶ涼しくなりました。虫の声もにぎやかです。日本の昔の風習では、十五夜(中秋の名月)に月見をしたら十三夜にも月見をするものとされていたようです。今年の十三夜は10月9日、その頃は晴れることが多いので「十三夜に曇り無し」という言葉があるそうです。十三夜は月見酒にしょうかな。では、「チカヂカ、チカチカ」を楽しみにしています。

(10月1日)

 

 バックナンバー→ vol.9,   vol.8,   vol.7vol.6vol.5vol.4vol.3vol.2, vol.1