台長コラム ときどき土佐日記

【河北新報「ときどき土佐日記」2016年6月掲載原稿 ~原案・補足~】

 

「宇宙」という言葉の使い方について、以前から気になっていたことがありました。

「宇宙」という言葉は中国に古くからある空間・時間の広がりを表す言葉だそうですが現代では主な使い方が二通りあります。英語では、それぞれユニバース(Universe)とスペース(Space)という異なる言葉が使われています。

ユニバースは古くからある言葉で、あらゆるものを含む空間・時間の広がり(全体)で、本来の宇宙です。スペースは地球近傍の宇宙空間で、戦後宇宙開発とともに広く使われるようになりました。

航空宇宙業界では地上100㎞以上の大気圏外を宇宙と呼ぶそうですが、英語ではスペースです。地上約400㎞を飛行するおなじみの国際宇宙ステーションは英語ではインターナショナル・スペース・ステーション(International Space Station)、略してISSです。スペースでは宇宙飛行士、人工衛星あるいは探査機などを使った様々な活動が行われ、宇宙産業・宇宙ビジネスあるいは軍事利用などが追求されています(注1)。スペースの広がりはおよそロケットや探査機が到達できる範囲で、時間的にも人間が実感できるスケールです。

もう一つの宇宙、ユニバースはスペースを含む人間の感覚を超えた広大な空間・時間の広がりで、天文学の領域です。人類の歴史においては、神の世界、あるいは人智を超えたはかり知れない世界と考えられた時代が長く続きましたが、現代では科学の力、自然の法則によって理解できる世界です。私にとって、ユニバースは、スペースと異なり、手が届かない操作できない「生の自然」が魅力で、興味深い探求の対象です。

現代の天文学は、恒星や銀河の正体、宇宙の膨張、さらに宇宙の始まりから138億年にわたる宇宙の歴史・進化を明らかにしました。

私たちの体を作っている炭素や酸素などの元素は、その昔、(今は無き)いろいろな恒星の中で核融合によって合成されたもので、宇宙を巡りめぐって今私たちの体に集まっています。生命活動に欠かせない水は水素と酸素が結びついた分子の集まりですが、水素は138億年前宇宙の始まりビッグバンで合成されたもの、宇宙で最も古い元素です。このように、宇宙の歴史をたどると、私たちは時空を越えて宇宙と密接につながっていることがわかり宇宙が身近に感じられますが、実は私たちも宇宙の一部なのです。

 

以上のように、スペースの宇宙は地球・人間中心の宇宙で、人間活動の「膨張」を見ることができます。一方、ユニバ―スの宇宙は人間活動から最もかけ離れた世界に見えますが、その進化の歴史を通じて私たちの存在と密接に繋がっています。もし、そのような人間と宇宙とのつながりを知りたければスペースの彼方のユニバースの宇宙に目を向ける必要があります。

 

同じ宇宙でも、ユニバースとスペースではずいぶん意味・内容が違います。スペースという言葉は20世紀になって宇宙開発ともに広く使われるようになりましたが、この「スペース」が日本に「輸入」されたとき、ユニバースと同じ「宇宙」という言葉が充てられました。これは誤解を招く選択だったと思いますが、その違いを理解することは宇宙を理解する第一歩となるでしょう。 

 

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図1:アンドロメダ銀河 ©Lorenzo Comolli

〔距離250万光年、直径約25万光年。数千億の星やガスが集まった巨大なシステム(銀河)。私たちの銀河(銀河系)も外からみれば、このように見えるはず。銀河系の外の宇宙には、数千億個の銀河が100億光年のかなたまで広がっています。〕

 

 

注1)

我が国の宇宙開発の方向性は内閣府による新しい「宇宙基本計画(平成28年4月1日閣議決定)」に示されています(内閣府のウェブサイトで閲覧できます)。新しい「基本計画」の特徴は、宇宙開発が安全保障(軍事)に貢献することが強く求められていることです。戦後の宇宙開発は、自由・公開が原則の科学研究と機密保護が求められる防衛・安全保障(軍事)研究とは別々に進められてきましたが、安倍政権になって科学研究と軍事研究の一体化が進んでいます。科学研究は自由・公開が原則でしたが、今後、機密保護の対象となって非公開となったり、あるいは研究の自由が制限される可能性があります。戦後ほぼ60年続いた平和な宇宙開発・科学研究ですが、どのように軍事色が強まるか今後の展開に注目です。

<参考>

内閣府の「宇宙基本計画」に関するウェブサイト:http://www8.cao.go.jp/space/plan/keikaku.html

 

 

<補足>

最近(2017年6月2日)、準天頂衛星「みちびき2号機」が打ち上げられました。これは日本周辺に特化したGPS衛星で、日本周辺の測位(位置測定)精度の向上が期待され、「宇宙基本計画」によると、全部で7機の打ち上げが計画されています。正確な測位は様々な分野で役に立つところですが、軍事的にも重要な情報です(例えば、ミサイルの誘導・命中精度の向上に役立つ)。準天頂衛星システムの推進にはそのような背景があることを考えると、「みちびき」の打ち上げ成功とともに、世界が平和であることを願わずにはいられません。

 

 

【河北新報「ときどき土佐日記」連載 ~2016年6月掲載原稿~】

 

「宇宙」という言葉は中国に古くからある空間・時間の広がりを表す言葉だそうですが、現代では主な使い方が二通りあります。英語ではユニバースとスペースという異なる言葉が使われています。ユニバースはあらゆるものを含む空間・時間の広がり、本来の宇宙です。スペースは地球近傍の宇宙空間で、戦後宇宙開発とともに広く使われるようになりました。

宇宙航空業界では地上100㎞以上の大気圏外を宇宙と呼ぶそうですが、英語ではスペースです。おなじみの国際宇宙ステーションは英語ではインターナショナル・スペース・ステーションです。スペースでは人工衛星や探査機などを使った様々な活動が行われ、宇宙産業・宇宙ビジネス・軍事利用などが追求されています。スペースの広がりはおよそロケットや探査機が到達できる範囲で時間的にも人間が直接測れるスケールです。

もう一つの宇宙、ユニバースはスペースを含む人間の感覚を超えた広大な空間・時間の広がりで、天文学の領域です。人知を超えたはかり知れない世界に見えますが、自然の法則・科学の力によって理解することができます。私にとっては、スペースと違って手が届かない操作できない「生の自然」が魅力で興味深い探求の対象です。現代の天文学は、恒星や銀河の正体、宇宙の膨張、さらに宇宙の始まりから138億年にわたる宇宙の歴史・進化を明らかにしましたが、地球や私たちの存在も宇宙の進化の中に位置づけられ理解できるようになりました。

このようにスペースの宇宙は地球・人間中心の宇宙で、人間活動の「膨張」を見ることができます。一方、ユニバ―スの宇宙は人間活動から最もかけ離れた世界に見えますが、その進化の歴史を通じて私たちの存在と密接に繋がっています。もし、そのような人間と宇宙とのつながりを知りたければスペースの彼方のユニバースの宇宙に目を向ける必要があります。

同じ宇宙でも、ユニバースとスペースではずいぶん違います。新しいスペースという言葉にユニバースと同じ宇宙という言葉を充てたことは誤解を招く選択だったと思いますが、その違いを理解することは宇宙を理解する第一歩となるでしょう。

 

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図2:国際宇宙ステーション(ISS) ©NASA

 

 

※「ときどき土佐日記」は、毎月第1土曜日の河北新報夕刊に連載中です。