太田聴雨「星をみる女性」

 仙台七夕がやってきましたが、先月七夕の頃、東京に出張したときに時間があったので、東京竹橋にある東京国立近代美術館を訪ねました。

 仙台市天文台は博物館登録施設、国に博物館として登録されています。天文台に勤めるようになって、博物館・科学館・美術館などを訪ねるのも仕事になりました。

 東京国立近代美術館ではクレー展が開催中でしたが、常設展示では近代日本絵画の代表的作品を見ることができました。

 常設展示ではガイドツアーの案内がありました。天文台でもスタッフが展示ガイドや解説などをしているので、参考になることがあればと思い参加することにしました。

 ホスピタリティあふれる女性のガイドさんで、楽しくわくわくしながらツアーに出発しました。七夕の季節ということで、空や星をテーマにした作品をいくつか選んで案内してくださいました。

 ガイドさんは、作品の解説をするというより、まず参加者の感想を上手に引き出して、そこに解説や鑑賞のヒントを少し加え、また問いかけをして参加者の反応を見ているようでした。ツアーが進むにつれ、参加者からさまざまな感想や意見が出され、見る目も変わってくるようです。30分ほどの短い時間でしたが、楽しいひと時を過ごしました。

 このガイドツアーで、一枚の絵に思いがけない再会がありました。それは、太田聴雨(1896−1958)の「星をみる女性」(1936年)です。

 五人の和服を着た若い女性が大きな屈折望遠鏡を囲んでいる絵です。切手(1990年)にもなった絵ですが、切手では右側の女性1人と望遠鏡の架台・ピラーがトリミングされていました。実物は273×206cmの大きなもので、細部まで良く見ることができます。

 日本画で和服の女性と天体望遠鏡、想像しにくい取合わせですが、静かな調和があります。太田聴雨は「描かれた女性は『悠久的なるもの』への思慕を表現する為に私が仮に託した映像に過ぎない」と述べているそうですが、私は日本版ムーサ、ミューズの女神と解釈しました。ミューズの女神たちが集うところがミュージアムです。

 特に私の目を引いたのは、望遠鏡を覗いている女性の目と、その望遠鏡です。望遠鏡は見慣れたドイツ式屈折赤道儀で細部まで実に正確に描かれています。解説によると、予想通り上野の国立科学博物館の口径20cm屈折望遠鏡でした。1931年、国立科学博物館1号館が完成した時屋上に設置されたもので、当時から観望会が開かれていたそうです。画家も観望会を見て着想を得、望遠鏡を忠実に写生したのでしょうか。

 実は、私も昔(1950年代)、中学生の頃何度か上野の科学博物館の天体観望会に参加し、この望遠鏡を覗いたことがあったのです。憧れの大望遠鏡でした。今はもう使われていないようですが、思わぬ再会でした。
 
この絵は独立行政法人国立美術館のウェブサイトで見ることができます。
太田聴雨「星をみる女性」 http://search.artmuseums.go.jp/records.php?sakuhin=2102