台長コラム ときどき土佐日記

宇宙を身近に

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※この日記は、「りらく」7月号内コラム“Astronomical Essay”と連動しています。
 
 私が勤務する仙台市天文台では、「宇宙を身近に」を合言葉に、宇宙が身近に感じられるような施設を目指しています。「身近」というと、文字通り身の回り、近くにあって日常の生活に関係が深いこと。ところが、星や宇宙は遠くにあって、日常生活には縁の薄い存在、どうしたら身近に感じられるでしょうか。

 幼少の頃、満天の星空や天の川は馴染みの風景でした。いつしか星に興味を持つようになり、夜な夜な外に出て星座を探したり、望遠鏡で月を眺めたり、宇宙が身近な遊び場になりました。そうした夜遊びを繰り返しているうちに、ふと疑問がわいてきました。「星の正体は何だろう」。そう思って星をいくら見つめてもその正体は見えてきません。身近な星がだんだん遠くなるような気がしましたが、そこから、星の正体を求める長い旅が始まりました。

 やがて、星の正体は太陽のような巨大な高温のガス球で、核融合反応という原子力エネルギーで輝く天然の原子炉であることを知りました。納得できるまでにずいぶん時間がかかりましたが、いつの間にか黒板に星を表す円を描き、あたかも自分が星になって自己紹介をするように星の話をしていました。星の理解が深まって再び星が身近になったわけです。そして、私にとって星は「☆」から「○」になりました。

 距離は近いのに、身近に感じられないものもあります。たとえば、元素。私たちの体は酸素・炭素・窒素など様々な元素で構成されていますが、極微の元素は目にも見えず、触れても実感できず、心理的には限りなく遠い存在です。その元素が、実は核融合反応によって星の中で作られたことを知りました。星の中で作られた元素は、星の一生の終わりの大爆発によって宇宙に撒き散らされます。そのような昔の星が作った元素を集めて太陽や地球が生まれたというのです。私の指先の炭素原子は、その昔、星の中で作られ、はるばる宇宙を旅して今ここでひと時を過ごしている、つまり、私たちは星のかけらでできていると言うことになります。このことを知ったとき、目には見えなくとも、元素が急に身近な存在になりました。近いものと遠いもの、極微なものと限りなく大きなものがつながる、宇宙の面白いところです。

 満天の星や天の川は都会では見られなくなりましたが、プラネタリウムで疑似体験することができます。また、薄明の空に明るく輝く金星や細い月などは都会でも見られる風景です。少し注意していると日常生活の中に宇宙を身近に楽しめる機会がいろいろありますが、もし興味を持って深く知り、理解が深まると一層身近に感じられると思います。これは、宇宙だけでなく、音楽・美術・文学などあらゆる分野に、そして人間関係についても言えることでした。