霜山徳爾さん(1919-2009)のこと

 新聞を整理していたら、霜山徳爾さんの訃報が目に留まりました。上智大学名誉教授、臨床心理学、フランクル著『夜と霧』の訳者、10月7日死去、90歳とあります。

 私が最初に霜山さんを知ったのは学生時代フランクル著『夜と霧』(みすず書房)を読んだときでした。アウシュビッツ強制収容所から生還した心理学者による収容所の記録です。極限的・絶望的な状況のなかでいかに生き延びたかが記され、強烈な衝撃と感銘を受けました。

 その後(20数年後)、大学で学生相談に関わるようになってカウンセリングや心理療法の本を見る機会がありました。そこで鍋田恭孝編集『心理療法を学ぶ』(有斐閣)の中に霜山さんが執筆された一章「心理(精神)療法家としての心構え」を読み、参考書にあった霜山徳爾著『素足の心理療法』(みすず書房)を見つけ、久々の再会になりました。

 『素足の心理療法』は心理療法家の心構えを説いた本ですが、古今東西の文学・芸術・宗教などを引用しながら、人間とその心の宇宙を語っていました。私には難しい本でしたが、深い感銘を受けました。

 最初に「沈黙」の意味と豊かさが説かれ、次いで「心理療法の根本原則は、害を与えざること第一なり」、「いやしに毒はつきもと」と心理療法家に絶えず反省を促す言葉が続きます。これらの言葉は、教育や人に働きかける仕事に携わる人にも大切な言葉だと思いました。

 霜山さんの言葉は、長い心理療法の経験に基づくもので、人の心の中の広大な宇宙と暗闇を感じさせるものです。霜山さんはそのような心の宇宙の案内人であり、また、心の奥の暗闇に光を灯そうとする伝道師のように見えました。宇宙の暗黒物質のように、心の宇宙にも見えない大きな無意識の暗闇があり人間を支配しているようです。

 霜山さんの著作は学樹書院から出版された『霜山徳爾著作集(全7巻)』にまとめられています。私も折に触れ著作集を開いていましたが、しばらくご無沙汰しておりました。この機会に霜山さんの著作を訪ね、ご冥福をお祈りしたいと思います。