白と黒と天文台のユニフォーム

先日、青森県立美術館を訪ねました。企画展「光を描く 印象派展-美術館が解いた謎-」が開催中で、常設展とあわせて楽しんできました。緑の中の白い建物が印象的でしたが、内部は面白い構造で外観よりずいぶん広く感じました。壁面のサインも独特の文字や記号で統一されています。そのような無機的な白い建物の中で、女性スタッフのユニフォームが対照的でした。ブルーのスモック風ワンピースで、スタッフの丁寧な対応とともに、暖かくソフトな人間味が感じられました。美術館と企画展については美術館のウェブサイトに詳しい案内や説明があります。
 
白い建物、白い壁の大きな部屋、白い回廊など、白が強く印象に残りました。さらに企画展では「光と色彩」を扱った展示があり、白についていろいろ考えました。

白は純粋無垢、あるいは冷たくよそよそしい、人を寄せつけないといったイメージがありますが、基本的には無色・無害・ニュートラルと考えていました。しかし、真っ白な壁に囲まれると、不思議な圧力を感じ、方向感覚が失われるような非日常的な感じがします。白は重力を弱める効果があるのでしょうか。白は必ずしも無色・無害・ニュートラルではなさそうです。
純白に囲まれると、モノも人も存在感を示すためには白に対抗しなければなりません。白は膨張色、ただ存在するだけでは、脱色されて押しつぶされてしまいそうです。

これは心理的な問題ですが、物理学的にも理屈がつきそうです。白い物体はあらゆる色の光を散乱・乱反射するので明るく見えます。一方、色のある物体は、その色の光だけを反射し、他の色の光は吸収して消してしまいます。ですから、同じ光で照らされた場合、色のあるモノは光の量が少なく、白に負けてしまいます。

このような強い白に対抗できる「色」があるとすれば、それは黒でしょう。黒は、周囲が白ければ白いほど一層引き立ち存在感を増します。白とは反対に、あらゆる光を吸収して光を消してしまいます。物理学・天文学では、あらゆる光を完全に吸収する理想的な物体を「黒体」と言います。黒体にはいろいろ面白い性質がありますが、長くなるので別な機会に。
 
実は、仙台市天文台も真っ白です。建物の外観も館内も白を基調にしたデザインで、来館者には明るく清潔感があっておしゃれできれいと好評です。しかし、最初、私は少し落ち着きませんでした。真っ白な世界は人工的で不自然な感じがしたのです。その中でスタッフが自然に振る舞い、自然な存在感を示すことはなかなか難しいような気がしました。

そこで気がついたのが、私も着用している天文台のユニフォームです。下は、黒の長ズボンで両脇に細い白線が入っています。上は、夏は半そでの黒いTシャツ、冬は長袖の白いワイシャツです。最初は慣れない服装で抵抗がありましたが、非常にすっきりしていて、意識しなくても天文台の雰囲気に自然に溶け込めるような気がします。デザイナーが考えてくれたかどうか分かりませんが、心理的には楽なユニフォームです。

そのユニフォームが、この秋にリニューアルするそうです。これまでとはかなり違った色とデザインになるようです。若いスタッフには似合いそうですが、私にはどうでしょうか。白い天文台の「異物」に見えないかどうか気になるところです。

こんなことを帰りの新幹線の中で考えたのですが、すこし観念的に過ぎたかもしれません。一度検証してみたいと思います。思いがけなくも、「白」について色々考えた旅でした。