仙台市天文台について

台長からの2012年のご挨拶

たべる VI



2012年「食」を楽しむ

 

 仙台市天文台では市民の皆様に宇宙を身近に感じていただけるような活動をめざしています。宇宙が身近に感じられる活動は様々ですが、私は宇宙の理解が深まって宇宙が身近になることを願っています。

 

 仙台市天文台では毎年テーマを選んでテーマに沿った活動を行っていますが、今年のテーマは「たべる」です。

 

 「たべる」、「食」は私たちの生活で最も大切な活動ですが、大きな楽しみでもありあます。宇宙でも日食・月食など食の楽しみがありますが、今年ならではのメニューは5月21日の金環日食と6月6日の金星太陽面通過でしょう。

 

 天文学では、天体が他の天体を隠す現象を食と言いますが、星が月に隠されると星食になります。重力で引き合あう二つの星が隠し合うと、周期的に明るさが変わり、食連星・食変光星と呼ばれます。

 

 食物は食べると無くなってしまいますが、天体の食は、隠された天体が再び顔を見せる「いないいないばあ」の面白さがあります。食を詳しく観測すると、天体の様々な性質を知ることができますが、見えない天体の存在を確認することもできます。最近、太陽系の外に惑星がたくさん見つかっていますが、その多くは惑星が星の前面を横切るときにわずかに暗くなる食現象を利用して発見されたものです。

 

 食は隠すだけでなく、皆既日食のときに見られるコロナのように、ふだん見えないものを見せてくれます。しかし、いつでも食が起こるわけではないので、特殊な遮光装置で太陽や星を隠し、人工の食を起こす技術が開発されました。この技術により、まぶしい星の光を隠して、星の周囲を回る暗い惑星や惑星が生まれつつある塵の円盤などが直接観測されています。

 

 宇宙には、見かけの食だけではなく、重力でガスを引き寄せほんとうに食べてしまう天体もあります。星の死骸である白色矮星・中性子星・ブラックホールなどは単独では静かにしていますが、ふつうの星のすぐそばにあると、星から放出されたガスを食べて激しい活動を示すことがあります。宇宙最大の大食漢は銀河の中心にある巨大ブラックホールですが、宇宙で最も激しい爆発現象を起こしている活動銀河は食事中の巨大ブラックホールです。天体にとっても、食はエネルギー・活力の源です。

 

 生き物と同じように、天体も食によって成長します。惑星は軌道上の小さなかけらを食べて成長し、巨大な銀河も小さな銀河を食べて成長し現在の姿になりました。宇宙の歴史は食が生み出したものと言えるかもしれません。

 

 以上のように、宇宙には様々な食現象や食に例えると分かりやすい活動があります。珍味や風変わりなメニューもありますが、宇宙の食を楽しみ、科学や宇宙の理解を深めてい頂ければ幸いです。

 

  仙台市天文台台長
土佐誠 サイン

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