美術家 加川広重さんインタビュー

 

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 蔵王在住の加川広重さんは、映画のスクリーンを彷彿とさせる巨大な水彩画を数々発表し、今仙台で最も注目を集めている若手画家の一人です。今回その中の一つ「全天星座図」の展示が天文台で始まり、初日(12/23)にはギャラリートークとコラボレーションコンサートが開催されました。イベント終了後、会場がまだコンサートの熱気に包まれている中、加川さんに話を伺いました。-巨大水彩画を描くようになったきっかけを教えてください。
 
「絵を描く人間なら、誰でも一度はすごく大きな絵を描いてみたい、という願望を抱くと思うのですが、僕もそのような理由で描きはじめたのがきっかけです。そのときは今作の4分の1にも満たない大きさだったんですけど、一度描いたらさらに大きいものを、という気持ちがおさまらず、毎年どんどん大きくなって、前作と今作(10作目)が最大の大きさになりました。」
 
hiroshige2.jpg-では、次作はもっと大きいものを期待してもよろしいでしょうか。
 
「会場さえあれば全然問題なく可能です。ただ、正直、飾る会場がないんですよね。水彩絵の具は水で溶けるので屋外展示は絶対ありえない。なので、屋内で、高さがあって、幅があるところであれば、作ることはできます。」
 
-なぜ水彩画を選ばれたんですか?
 
「子供のころはずっと油絵を描いていて、大学も油絵科に所属していました。4年生で卒業制作を作る時に、急に“自分が今まで通り普通に油絵の作品を描いて卒業してしまっていいんだろうか”という疑問が生じてきて、なかなか着手できなかったんです。そんな時に一度原点に戻って、最初に絵を描くことに興味をもった小学生の時に使っていた水彩絵の具を買ってきて描いてみたところ、これがすごく自分にしっくりきて、“あ、これかもしれない!”と思い立って、卒業制作だけ水彩を描いたんです。そのときはさすがに大学の教授に怒られましたね。“今までやってきたこと、教えてきた4年間は一体なんだったんだ?”って(笑)。でも、その後僕は水彩しか描いてないので、間違いではなかったな、と今では思ってます。水彩絵の具といhiroshiget5.jpgう素材は、あんまり混ぜすぎると色が濁ったりくすんでくる素材なんですね。とにかく原色が一番良いんです。チューブそのままで描くのがベスト。油絵との大きな見え方の違いとしては、油絵は一般的に明るいところは白とか黄色を混ぜて明るくするんですけど、透明水彩は明るいところ=薄いということなんです。紙の白さを生かしてるんです。その白さで明るくなってるので、内側に光が入りこんでるように見えるところがあると思うんですが、それが星座を表現するのに適しているのかな、と思います。」
 
 -今作は完成するまでどれくらい時間がかかったんですか?

「最初に絵の具をつけたのは8月くらいだったので約4カ月です。その前に、紙を貼るパネルを手作業で作るのに2カ月かかりました。今回の作品は24枚のパネルが組み合わされてひとつの作品になっています。隣り合うパネル同士がきれいにつながらないといけないので、そこにはミリ単位で気をつかいました。なので大工仕事をしながら、イメージを考えて、という感じです。」
 
-孤独な作業ですね。

「孤独に耐えられなかったら絵描きにはなれないってよく言いますけど、アトリエにずっと居続けられないと絵は描けないですね。」
 
-そうとう広いアトリエかと想像しますが…。

kagawa6.jpg「そんなに広くはないんです。普通に物置件ガレージみたいなところがありまして、車庫にもなってるので車を全部出して、カーテンを作ってそこに風雨が入らないようにして…。半分外みたいなものなので、今の時期は完全に防寒して、夏は蚊に襲われたりしながら(笑)描いてました。でもかえってその、外に近いという環境が、リアリティのある表現を生むのに良いんだと思います。僕、絵を教えてるんですけど、生徒に写生をさせると、その空気感まで自然に描けるものなんですね。それは技術とは関係なく。だからそういう要素が、リアリティとか緊張感につながっている、という良い面もあるんじゃないかな。部屋の中の暖かいところで描いたら、このような絵には仕上がらなかったと思うので。」
 
-星座にはもともと色はないものですが、このような色で描かれたのには何かこだわりや理由があったのでしょうか?
 「今回、いつも絵の具を買っていたお店が閉店することになって、3つのメーカーの絵の具を全て買い取ることになったんです。それで、僕はもともとパレットにある絵の具を全部使う方なので、絵の具の種類としては200くらいの別の色すべてを使ってみよう!と思い、このような絵になりました。色が感情を表現する、ということもあるので、これまで買ったことのない、使ったことのない、例えばパッションオレンジなどを使うことで、自分の中で色々広がった部分はありますね。」
 
-では最後に、美術にはどんな力があると思いますか?

hiroshige3.jpg 「現代の人間の生活と、いわゆる“生の芸術”っていうのは、どんどん離れていってるような気がするんですね。安易な言い方かもしれませんが、インターネットとか情報の流通のスピード感とか、生のものに触れるとか、生生しいものってあんまり感じられないと思うんですけど、絵画って、映像や写真、CGとは違って、作者がいて、作者の手のストロークで描かれたものを、そのまま生の人間が目の当たりにする。コンサートもそうですけど、生のものって人に突き刺さってきたり人を巻き込んだり、何かその人間の感覚を広げる可能性がすごくたくさんある。僕は感覚的に描きたいタイプなので、なるべく感覚的に、見る人の“感じられる感覚”を、ひとまわりでもふたまわりでも広げられたら素晴らしいと思うんです。美術家の良いところは―これを感じられるようになったのは最近なんですけど―絵が成長していくと自分の感覚も広がっていく。そうすると、今まで見慣れてたものが美しく感じられてくるんですよ。例えば家の前のたんぼや庭だけでもどんどんどんどん美しくなっていく。それ自体は何も変わってないのに。それと同じような感覚を、見る人にも伝えたいなっていうのがあるんです。そしたら何もいらないんですよね、その時点で“今、あるもの”が変わっていくから。それが“僕の”美術の理想です。」
 
 直接加川さんから制作秘話を聞いたり質問したい方は、1月6日(火)開催のギャラリートークへお越しください。穏やかでいながら、その内に秘めた情熱を、絵から、そして加川さんご本人からも感じ取っていただけるはずです。ぜひ“生の芸術”に触れて、その迫力に圧倒されてください。

 展示は1月10日(土)まで。加川さんのウェブサイトはこちら→http://www.kagawahiroshige.com/
hiroshige4.jpg▼12月23日のコンサートのようす。とても感動的なひとときでした。

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