はじまりを探す旅~羽馬有紗さんインタビュー~

 

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10月1日から展示室で、はじまりをさがす旅~『エレンの宇宙』原画展~ を開催します。

『エレンの宇宙』(技術評論社)は、宇宙の歴史をあたたかな絵とやさしい言葉でたどったものがたり。

まるで絵本のような親しみやすいイラストの数々を生み出す羽馬さんは、なんと現在オランダ在住。

大学院で学んだ天文学の知識をベースに、サイエンスライター・イラストレーターとして活躍中です。

そんな羽馬さんの声が、とおくオランダから届きましたよ!

 

 

―まずは、あらすじをご紹介します。

 

 いつもと変わらない昼下がり。

 電子・エレンが自分はひとりの女の子の体の一部であることを自覚したことから回想の冒険がはじまります。3ヶ月前はリンゴだったこと、半年前は木だったこと、どんどん昔を思い出していきます。あるときは、恐竜。その昔は、地球で最初の生物の細胞のなか。その前は海~宇宙の塵~宇宙で最初の星~もっと前は光のじゃまをしたり、原子核ができるのを目撃したり。

どこにでも存在する「電子」、そのひとつエレンが宇宙の歴史をさかのぼり、大きな謎にせまります。

イラストでめぐる「星」、そして「宇宙」のものがたり。 

 

 

―大学院で天文学を学んで、なぜイラストレーターになったのですか?

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 '絵描きさん'になるのは天文学に興味をもつずっと前、小さい頃からの夢で、暇さえあれば創作活動をしていました。絵を描くことは自分の一部というか、絵を描くことで本当の意味で自由になれると思っていました。そして大学進学の際、美大も考えましたが、好きだった宇宙をちゃんと勉強したいと思って物理学科に入りました。

 大学院に入って研究した中で、ポスター発表、ノートの取り方などを評価されるうちに、「これってうちの得意分野かも?」なんて思い、絵を描くということを職業にしたいと具体的に思うようになりました。そして、理系出身ということと、私のアウトプット芸を生かして今の仕事をするようになりました。

 

 

―『エレンの宇宙』にはどんな思いを込めましたか?

 

ellen02.jpg 私が死んでも私を構成する物質は形を変え存在しつづけます。生きている私にしても、体の中の物質は常に入れ替えられています。髪、爪、皮膚、体の中もそうです。新しく食べたものを取り込んで、古いものを排出する。私の中の電子が少し前にはあなたの電子だったかもしれない。私の中の電子は恐 竜の中に存在したこともあるし、太陽のまわりをまわっていたこともあるし、超新星爆発の中にいたこともあるし、宇宙初期の素粒子と光が飛び交う中にいたこともあるし・・・。

もしそう考えると、自分は宇宙の歴史の全部と繋がってるような不思議な気がします。

そんな気持ちを共感してもらいながら、今の宇宙論の研究で宇宙の昔がどこまでわかっているかを一般の人でもわかってもらえるように書きました。

 

 

―今回の原画展で注目してほしいところは?ginga.jpg

 

 カラーの折り込みの絵(「宇宙の歴史はエレンの歴史」や「原子模型」)を実物大で見て頂きたいです。挿絵のほうは私の好みで選びました。好みだったところといえば、たとえば、私は昔から白衣を着た博士にどこか憧れがあって、物理学科でも天文学専攻でも白衣を着ることがなかったので、憧れの白衣を着た科学者たちを愛情を込めて描いたところなどかなと思います。

 

 

―現在のオランダの暮らしについて少し教えてください。

 

 夫は天文学者でオランダの大学に勤めています。そのおかげでオランダに住んでいるのですが、ここの生活は私にとってかけがえのないものです。

 私の生活は5歳の娘と1歳の息子中心でまわっていますが、二人がいい感じにリードしてくれるのでオランダ生活7年目にして自分も根付いてきたような気がします。二人のおかげで私のオランダ語(特に幼児語に童謡)も、オランダ人の交友関係も、ぐっと濃く深くなりました。近所に住んでいる音楽家のおばあさんは隔週でうちの息子と近所のこどもたちに音楽教室をしてくれている素敵な方で、私の大切なお友達です。

 オランダでは4歳から8年間小学校に通うのですが、娘が通う学校はモンテッソーリ教育を実践している学校で、自由なんだけど礼儀正しいところがオランダらしくて気に入っています。私が感じたオランダらしさとは、新しいものを抵抗無しにどんどん取り入れる自由さと、古いものを大事にする礼儀正しさ。これはオランダの得意な面だと思います。例えばインテリア、ダンスなど。大好きです。あとはコーヒーが安くておいしい! どのカフェでも2ユーロ(300円くらい)でおいしいコーヒーが飲めます。クッキー付き。アップルタルトに添えられた生クリームが特大なのもうれしいです。

 

 

―今後について、教えてください。

 

 haba02_s.jpgとにかくオランダ語をペラペラになりたいです(笑)。

絵のほうは、息子が4歳になって学校に通い出したら時間ができるので、また好きなように描こうと思っています。

 旅行記を描くのが昔から好きで、これまでに趣味で「ペルー紀行」「スリランカ紀行」「トルコ紀行」と描きましたが、「オランダ紀行」もかきたいです。長編になるだろうな。

 

 

 

 

 

 

―最後に、仙台の皆さんに何かメッセージをお願いします!

 

 仙台は北大時代の水泳部の練習試合でよく行きました。緑と坂の多い素敵な街で、ごはんもおいしくて大好きです。そんな仙台の皆さんとエレンの出会いを楽しみにしています。

先日『エレンの宇宙』の表紙のエレンを見た娘(5歳)とこんな会話をしました。

 

娘:「これお月さま?

私:「ううん、電子っていって小さい小さいもので、

アスちゃんの中にもママの中にもお月さまの中にもいるんだよ」

娘:「え〜!!??太陽にエレンちゃんは?

私:「いる。土にもいる」

娘:「!

私:「パンにも牛乳にもテーブルにもいる」

娘:「ええー!

私:「なんでもエレンちゃんからできてるんだよ。エレンちゃんだけじゃないけど」

娘:「エレンちゃん、すごいね...」

 

 親子でこんな話をしながら見に来てもらってもうれしいし、宇宙にすごく興味のある方も、ちょっと興味ある方も、あまりない方も、水彩/鉛筆画の風合いを楽しみつつ、天文台の松田さんが書いてくださった丁寧でわかりやすい説明文とともに、それぞれの絵から宇宙に思いを馳せて頂けたら尚うれしいです。

 

 

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『エレンの宇宙』原画展は年末(12/28)まで開催します!

羽馬さんとのやりとりしているうちに、やさしくかわいらしいエレンを生み出す羽馬さんの魅力や大らかなお人柄に惹きこまれていくようでした。

みなさんもエレンと一緒に、宇宙の歴史をちょっとだけのぞいてみませんか。

 

 

☆作者プロフィール☆--------------------------------

羽馬 有紗 HABAAlisa

1979年生まれ、大阪出身。北海道大学理学部物理学科卒業。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻、修士課程終了。

現在は、イラストレーター、サイエンスライターとして活躍中。著書に『ブラックホールの科学』(ベレ出版)、『DNAの構造とはたらき~DNA図書館へようこそ~』(ベレ出版)。2015年現在、5歳の娘、1歳の息子、夫と共にオランダに暮らす。

「HABAAlisa WEB Site」 http://habaalisa.x0.com

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